Mjuka

てきとうに。

「歌手」としての花澤香菜

 どうにも花澤香菜論を書き進められない状況が続き、彼女の1stアルバム発売から三か月が経とうとしている。三か月……1クールである。アニメによっては放送が終わり、視聴者たちはあたらしい「嫁」探しに向かうころだ。

 なので、まったくまとまっていないし、導入部もいいとこでであるが、ひとまず1400字ぽっちの花澤香菜論を吐き出しておくことにする。

 

 

 2013年2月20日に花澤香菜1st アルバム『claire』は発表された。

 花澤香菜といえば数多くのアニメに声を当てている人気声優として有名だ。そんな彼女がキャラクター名義ではなく、「花澤香菜」として歌手デビューしたのは、2012年4月25日のことである。このとき発表された『星空☆ディスティネーション』はROUND TABLEのひとり北川勝利によって作曲されたものだった。この瞬間、「花澤香菜」という歌手は「渋谷系」の文脈を獲得し、1st アルバムの発表によってそれを強化した。だがしかし、その文脈が声優であった花澤香菜に与えられることが特別なことかといえばそうではない。

 渋谷系ミュージシャンと呼ばれる、北川勝利(『claire』作曲トラック#1,#2,#5,#8,#9,#13)と中塚武(同#3)は坂本真綾に、沖井礼二(同#11)は竹達彩奈に楽曲提供するなど、声優と渋谷系ミュージシャンのあいだには『claire』(『星空☆ディスティネーション』)発表以前よりつながりがあった。(#12を書いたFullkawa Head.Q.musicは古川本舗の名で多くの曲を書いており、声優に対する楽曲提供こそはじめてであるが、彼のアルバム『Alice in wonderword』には渋谷系音楽グループの代表格であるピチカート・ファイブのボーカリスト・野宮真貴が参加していることから、渋谷系と近似の感性を持つことがうかがわれる)。

 また、渋谷系以外ないしはこのジャンルに近いミュージシャンでは、豊崎愛生に楽曲提供したクラムボンのベーシスト・ミト(同#7)や、中島愛に楽曲提供した宮川弾(同#6)、後藤邑子に楽曲提供した神前暁(同#14)らが参加している。これらの作曲家陣の履歴から浮かび上がってくるのは「渋谷系」という括りのほか、かつて声優に対し「キャラクターソング」としてではなく、「声優ソング」を楽曲提供してきた実績である。言わばこのアルバムは、「声優ソング」経験者の集団によってつくられた。

 「声優ソング」というとき、思い浮かべる声優の名前は世代間によって隔たりがあるだろう。椎名へきる林原めぐみの世代、堀江由衣田村ゆかりの世代、水樹奈々平野綾の世代――これらの世代区分が誤りである可能性も多分にあるが、その声優が第一線で活躍し、共有できる「時代」というのは限られる。それだけ「時代」は早変わりしていくのが現在の声優界だといえるだろう。そしてこの花澤香菜が活躍する現在、〈スフィア〉(寿美菜子高垣彩陽戸松遥豊崎愛生)や〈StylipS〉(石原夏織能登有沙小倉唯、松永真穂)など若手声優によるユニット活動が盛んに行われている。

 こうした声優ユニットにも当然ながら歴史がある。2005年から2007年まで活動した〈Aice5〉(堀江由衣神田朱未たかはし智秋浅野真澄木村まどか)やTAMAGO(門脇舞福圓美里)など枚挙に暇がない。そしておそらく多くの場合、これら声優ユニットというものは、作品のタイアップとして組まれる。『今日の5の2』では〈Friends〉(小林ゆう下田麻美、MAKO、明坂聡美本多陽子阿澄佳奈)が組まれ、『Project MILKY HOLMES』では〈ミルキィホームズ〉(三森すずこ、徳井青空、佐々木未来、橘田いずみ)の結成が挙げられる。そしてオリコンランキング1位を記録したアルバム『放課後ティータイム』(2009年)と同名のバンド、〈放課後ティータイム(前身として〈桜高軽音部〉がある)〉豊崎愛生日笠陽子佐藤聡美寿美菜子竹達彩奈)が『けいおん!』より登場する。そのような市場のなか、2011年、花澤擁する〈RO-KYU-BU!〉(花澤香菜井口裕香日笠陽子日高里菜小倉唯)は結成される。