Mjuka

てきとうに。

機種変更をした

 iPhone4sからiPhone8への機種変更をした。数字だけを見れば4世代くらいすっ飛ばしたように感じるけれど、実際にはもっとたくさんの世代を経ている。

 もはやどれだけの期間4sを使っていたのかさえ数えるが面倒になるのだけれど、すでにその機体はぼろぼろで、ホームボタンは何年もまえに壊れている。そのせいでいま困惑している。

 ホームボタンが壊れたiPhoneは、Assistive Touchという機能に頼らざるをえなくなる。これは画面上にホームボタン(のようなもの)を設置する機能で、その性質上、常時表示されるので非常に目ざわりなのだが、これがないとまともに動かすことができないのでどうしようもない。

 しかしこのAT機能に負んぶに抱っこの状態が何年も続くと、必然的にホームボタンに意識が向かなくなる。そしてそれが、機種変更をしたいまでも続いてしまっている。

 ホーム画面に戻ろうとするとき、僕の指は無意識のうちに画面上にあるAT機能を探してしまう。それから思い出したようにホームボタンを触る。そんなことを何度も何度も繰り返している。不便さに適応した身体は、なかなか効率的な動きができなくなってしまう。

 なんならホームボタンのないXにすれば良かったのかも知れないけれど、この丸いボタンが好きなのだ。

さよならだけが人生ならば、いつまでも憶えていよう

 きょう、子どものころから度々通っていた書店が閉店する。

 ここがもしFacebookならば、つまびらかにこの書店の名称や場所のことを書いただろうと思うけれど、ここではそうはしない。

 その書店の近くには小児歯科もやっている歯医者があって、ぼくはそこに定期検診や歯に異常がみられたときに訪れていた。そして、その帰りに本を買ってもらったり、じぶんで買ったりしていた。そしていつしか歯医者とは関係なしに買い物に行くようになり、いろいろな本をそこで買った。一時期はインターネットで本を買うようなこともあったけれど、気づけばそれもすくなくなり、ふたたび書店に足を運ぶようになっていた。

 そこは、別段自宅から近いわけではなかった。半分の距離で行ける書店もいくつかあったし、事実、その近くの書店で事足りることもあった。けれど、そうして買ったとき、僕の心は満たされることはなく、「書店で本を見た」という気がしなかった。書店は本を「買う」ところだが、同時に僕にとって、この世にあふれる本を「見る」ところでもあった。セレンディピティとでも言えばかっこいいけれど、偶然の出会いがそこかしこにあって、そのために僕は書店に向かうのだ。

 ここで出会った作家や作品は、のちのち僕を構成する重要な骨組みになった。桜庭一樹米澤穂信橋本紡森博嗣、そして数多くのライトノベル作品……。

 十数年前、まだライトノベルがそれほどメジャーではなかったころ、ここでは横5mほどの棚一面にライトノベルを陳列していた。思えばそのせいで僕の読書傾向はそちら側に傾いてしまったのだろう。毎月のように僕はそこで複数冊のライトノベル作品を買っては読んでいた。単純な冊数だけで言えば、そのころがこれまでの人生で最も本を読んでいた時期なのかもしれない。

 そうした時期を過ぎて、僕は歳を重ね、ライトノベル以外の作品を読むようになり、背伸びして哲学書を買ったり(≠読んだり)するようになった。

 やがて僕は大学生になり、都内の書店に行く機会が増えると、気づくことがあった。地方書店なのに、ここにはあらゆるジャンルの本が置かれているという異常さに。先述した近くの書店には置いていない本が、レーベルが、なんでもないように陳列されているのだ。いささか気づくのが遅いとも思うが、この発見は僕をうれしくさせてくれた。僕のいちばん好きな書店が誇らしかったからだ。

 その誇らしい書店が、きょう、幕を下ろす。

 僕というテクストはたくさんの種類の糸で織り込まれているけれど、そのなかでも重要なアクセントになっている糸はこの書店に違いない。これからも僕はいろいろなものを織り込んでいくだろうけれど、それでもこの書店で織られたところだけは色鮮やかに力強くあり続けるはずだ。

もの言わぬ本は待ち続けている

  しばらくまえの話題について言及するのはこの高速化した情報社会において愚かしいことだとは思う。

 

 さて、「なぜ読書をしなければいけないのか?」という問いかけだが、「しなければいけない」というと読書が義務であるように感じる。けれど誰も読書が義務だとは言わないだろう(強いてあげるなら、小学校の宿題で音読が課せられるくらいだろうか)。だから僕はその疑問に答えることができない。余程のこと、たとえば業務上必要になって技術書などを読まなければならないなどの状況にならなければ、無理をして読書をする必要はないのではないかと思う。

 けれど、この質問はきっとふだんあまり読書をしないひとが、日頃から読書をしているひとにたいして投げかけるものだと思う。だとしたら、すこし質問を変えれば内田樹のような斜に構えた答えではなく、まっすぐな答えを聞くことができるだろう。

 ではどう聞けばいいのか。それは、「なぜあなたは読書をしているの?」と問いかければ良い。

 たぶん、長ったらしく答えるひとはいない。たんに「面白いから」、「好きだから」、「楽しいから」などなど前向きな回答が寄せられるはずだ。それでは冒頭の「なぜ読書をしなければいけないのか?」にたいする答えが得られないと思うだろうが、「面白いから」読書をしているような人間が、義務感で読書をしているとは考えにくいのでどちらにせよ回答を得るのは難しい。

 このような疑問を持ったひとが、ふとした拍子に「本でも読んでみようかな」と思ったとき、本は待っている。そのひとが「読書なんて役に立たない」と思っていたころに出ていた本も、図書館へ行けばあるかもしれない。それだけは覚えていてほしいと思う。

 ……と、同時に、「いますぐに役には立たないかもしれない」図書館という施設の大切さもすこしでも考えてもらいたいなあ、なんて。

 

 それとこれは本を読む読まないに関係ないことですが、他人のことを馬鹿だのなんだと言ってしまうのは失礼なのでおすすめしません。

夢のあとさき

 meg rockの「clover」という曲が好きだ。

 この曲はアニメ『SoltyRei』(2005-2006)のOP曲で、僕が深夜アニメ触れた初期のころに出会った。多感な時期に聴いた曲であるせいか、僕の心に深く刻み込まれている。

 十数年月を経た現在、この曲を聞くと、あるひとつのテーマで物語を書きたくなる。それは、夢を叶えたひとのその後の話だ。

ハッピーエンドの後も おとぎ話は続く

  巷にはハッピーエンドを迎えて終わる物語で溢れている。けれど、それはただ本の紙幅が尽きただけで、すべてが終わってしまったわけではない。ハッピーエンドのあと、そのひとはどんな物語を描くのだろうか。

 夢を叶えるというのはハッピーエンドのひとつと言えるだろう。そのなかでも現実的な夢の実現というと、「幼いころに夢みた職業に就くこと」を僕はまず想像する。だから僕は思うのだ、「その職業に就くこと」そのものを夢にしてしまったひとは、その夢が叶ったあとどうなってしまうのだろうかと。

 ひとには展望が必要だと常々感じている。ひとは人生に対する閉塞感で死を選ぶことが往々にしてあるし、そうでなくとも展望がないということは不安と隣り合わせだ。そしてその「展望」は「夢」という形で抱くことができると思う。夢に向かって進むことでひとは人生を切り開いて行ける。そしてそれは少なくない数のひとが挫折する。ひどい言い方をすれば、これをバッドエンドと呼ぶのだと思う。そんな物語は個々人が胸に秘めるもので、なかなか世間に露出するものではない。反対に、夢を叶えた、ハッピーエンドを迎えたひとの物語は数多い。

 だから思うのだ、閉塞感を切り開いてきた原動力を失ったあと、ひとはどう生きれば良いのだろうかと。

 

 ……そんな話を書けたら良いなあと最近よく思っています。

会話文の練習

「恋人がいたことは?」
とくに気になるわけでもない様子で彼女は聞いた。僕は「ありますよ」とだけ答えて沈黙してすこしの間考え込んだ。
「恋人の定義ってなんでしょうね」
自分で言っておきながら意味のわからない問いかけだと思った。だからそれに対して相槌を打つように返事があったことにおどろいた。
「お互いに好きであること、かな」
「そうですか……。だとしたら僕に恋人がいたことはないのかもしれないですね」
「どういうこと」
はじめて彼女が僕のことを見たような気がした。姉妹なのに似ていないと思っていた彼女の顔も、よく見れば口元が似ているように感じる。
「やることはやるんですけどね。でも、たまに訊かれることがあるんですよ。私のこと好きなのって」
「それで?」
その声音はさきほどまでとは比べものにならないほどに楽しそうだった。
「なにも言えなくなっちゃうんです」
僕は自嘲気味にそう言って力なく首を振った。
「真面目なのね」
「逆ですよ。好きでもない人とセックスしてるんですから」
「そうやって罪悪感を抱いているところが真面目だと思うけど」
首を傾げ、不思議そうに彼女は言った。
「どうしても僕に真面目のレッテルを貼りたいみたいですね」
それを嫌がるように僕は眉間にしわを寄せる。こういう表情をつくるのにもずいぶん慣れてしまった。
「真面目は嫌い?」
「そうですね。つまらない人とだと言われているようで」
「私は好きよ」
その目はまっすぐに僕を見つめていた。
「……つまらない人間がですか?」
逡巡してそう答えると、彼女は薄く笑って何も答えなかった。
沈黙に耐えかねて僕は結露したグラスを持ち上げて口をつけた。氷が解けて薄くなったウィスキーは喉を焼くこともなくさらりと食道を流れ落ちた。
「君、好きな人とセックスしたことないでしょ」
語尾を上げることもなく、彼女は断定するような口調で言った。
「当てずっぽうの指摘だと思いますけど、そうですよ」
「それは、千沙のことが好きだったから?」
唐突に出てきたその名前に、僕は息を呑んで千沙の姉である彼女の顔を見つめた。
「当たりみたいね」
「……ずっと片思いを引きずってるんですよ。気持ち悪いでしょう?」
千沙にすこしだけ似た彼女に拒絶してもらいたかったのかもしれない。そうすればこの片思いが終わりに向かえる気がしたからだ。
「もしかしたら、妹も君のことが好きだったのかもしれない」
「そんなことあるわけないじゃないですか。もう何年も会ってなかったんですよ」
「けど、君は妹のことを想い続けていたじゃない」
僕は呆気にとられて会話を続けることができなくなってしまった。